忍者ブログ
nozaのなんとなく週末日記。
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
フリーエリア
最新TB
プロフィール
HN:
noza
HP:
性別:
女性
バーコード
ブログ内検索
アクセス解析
[1]  [2]  [3]  [4]  [5]  [6

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

05.異世界の彼女

そもそもユキヒの悩みとは何だろう…。
ディナはそれを考えながら長い学校の廊下を歩く。昨夜、マイラはユキヒの悩みを聞いているはずだった。しかし彼女は教えてくれない。

廊下には同じ服を着た生徒たちが立ち話をしていたり、歩いていたりする。この服はユキヒの学校の制服なのだとマイラは言っていた。窓から見える中庭にも沢山の生徒がいた。この建物全てが学校であり、およそ600人程の生徒がここで学んでいるとのことだった。もちろんここはユキヒの世界を模した彼女の夢の中なのだが、おそらく緻密に再現されているのだろう。
ある教室の前でマイラは止まった。教室の中をのぞくと、周りの人々と同じ制服を来たユキヒを見つけた。友達らしき人物達と楽しそうに会話をしていた。

「ユキ…」もご
トルツは彼女を見つけた瞬間、大声で呼ぼうとしたが、マイラが後ろから両手で彼の口をふさいだ為ユキヒにその声は届かなかった。
「なぜ止める」
怒るトルツとは裏腹に、マイラはにこにこしながら言った。
「郷に入っては郷に従えって。ちゃんとこの世界のルールに従わないとスムーズに行かないわよ」
この世界のルールとは何なのかとディナが問うと、マイラはおもむろに教室の中、入り口付近にいた生徒を呼びだした。
「鵲さんを呼んでくれる?」
"カササギ'とは確かユキヒの姓だ。なぜ彼女がそんなことまで知っているのかも気になるが、それよりもなぜ彼女はユキヒの世界のルールと言うものを知っているのか疑問に思う。
「この人達が鵲さんに用があるんだって」
マイラに急に振られて2人は焦る。確かにマイラに任せきりなのは悪い様な気はしていたが、いきなり振らないでほしい。
そう言われた男子生徒はなにやらニヤニヤしながらユキヒを呼びに言った。
「鵲、男の先輩が用があるって呼んでるぞ」
男子生徒はわざと周りにも聞える声でユキヒに用件を伝えた。それを聞いた者たちがユキヒの方を見たり彼らの方を見たりする。
おそらく一種の冷やかしの類いなのだろうとディナは予想する。
マイラを含めディナとトルツは先輩という設定らしい。よく見るとユキヒやこの教室にいる他の生徒はエンジ色のネクタイをしているが、彼ら3人は深緑色のネクタイだった。ネクタイの色で互いの上下関係を区別しているのだろう。

「何かご用でしょうか!」そう言って彼らの目の前に現れたのはユキヒではなかった。先ほどまでユキヒと話をしていた2人の女子生徒が威圧的な態度で立っていた。その後ろにユキヒが不安げな表情で顔を覗かせている。どうやらユキヒはディナやトルツのことがわかならいらしい。
「僕たちはその子と話をしたいのですが」
ディナは丁寧な口調だったが、トルツには彼が苛立っているのがわかった。
「最近多いんですよね、夕貴妃に言い寄る先輩が」
弱々しい声で後ろからユキヒが友達をなだめようとする。
「とにかく、夕貴妃は先輩方に心当たりがないって言ってるんで、お引き取りください!」
気の強い娘である。ここはユキヒの夢の中であり現存しない人物だが、実際ユキヒにこのような友達がいるのだろう。
2人の友達はプイと振り替えり「行こう夕貴妃」と彼女を促し立ち去ろうとした。ユキヒは少し後ろ髪引かれる様にこちらを向いていたが、ディナと目が合うと慌てて反らし、友達の後を追っていこうとした。その時…

「なぜ自分で言わないんですか」
ディナはユキヒの細い腕を掴んでそう言った。
少し強い力で掴んでいるのだろう。一瞬驚いた後ユキヒが顔をしかめる。
「ディナ」
トルツも驚き、彼の名を呼ぶ。
不思議なことに彼ら以外の周りにいた生徒達が制止した、まるで時間が止まってしまったかの様に。
ユキヒは下を向いたまま何も言わない。ディナもユキヒを掴んだまま、ただ彼女を見つめるだけだった。
無音のまま時間だけが流れる。
しばらくするとユキヒの瞳から涙がこぼれる。トルツは驚いたが、ディナはそれでも彼女を放さない。

いつまでこの状況が続くかと思われたが、突然目が眩むほどの青い光にその状況は打ち破られた。
これにはトルツだけではなくディナも驚いた。
光が静まると、そこにはユキヒの姿はなかった。
今の光…。
「ここはユキヒの夢の中であり、心の中なんだからシンフィニアの力が存在しても不思議じゃないわ」
彼女からシンフィニアという言葉がでて驚いた。
「あなたは一体何者ですか」
ディナの問いには答えず、マイラはユキヒが消え去った場所を見つめ
「今のは逆効果だったかもね…」
とつぶやく。
「けど…おかげで彼女の悩みがわかりました」
何だか時間がない様な気がした。マイラの謎はここを出てから聞くとして、とにかくユキヒにもう一度会わなければ。

彼女に伝えなければ…。


*******************************************

【一旦あとがき】

お読み頂きありがとうございました。
この話は2013年に携帯(ガラケー)のメモ帳に書いていた小説です。最初の方のみイベント時のペーパーに少し載せたことはありますが、全体を公開するのは初めてです。
ほとんど当時のまま載せています。小説は不慣れで読みずらい部分もあったかと思いますが、元々は自己満足で自分の為に書いていた物なので多めに見て頂けるとありがたいです。

そして、途中ですね。思いっきり。。。
「ええ?!Σ 続きはどうなるの?!!」と一番思っているのは私自身です(笑) 普段漫画はプロット、セリフ、ネーム…と全て決定してから描きだすのですが、この小説は本当に思いつくまま書いたためプロットですら完結していません、なんとなく頭の中で形になっている程度ですが、文字に起こせるほどしっかりしたものではないので、一旦はここで終わります。

いつか続きを書ける様に考えて行きたいと思っておりますので、またその時にご縁があれば幸いです。ここまでお付き合いありがとございました。

*******************************************

エメリフ番外編小説

はじめに: https://prairial.blog.shinobi.jp/Entry/64/
01.目覚めぬ少女: https://prairial.blog.shinobi.jp/Entry/65/
02.旅での出会い: https://prairial.blog.shinobi.jp/Entry/66/
03.魔術師マイラ: https://prairial.blog.shinobi.jp/Entry/67/
04.夢の中: https://prairial.blog.shinobi.jp/Entry/68/
05.異世界の彼女: https://prairial.blog.shinobi.jp/Entry/69/

↓2017年に描いたイラスト


※小説を読んで下さったフォロワさんが「制服姿のディナとトルツを見てみたい」と言って下さったので昔描いたものをひっぱりだしてきました(でも小説よりは新しい)
PR

04.夢の中

残されたジルファにマイラは声をかける。
「待つこともまた…試練なのよ」
その後、彼女は突然消え去った。動揺するジルファの頭の中に彼女の言葉が聞こえてきた。
「心配しないで、彼らは必ず戻ってくるわ」
残されたのはジルファとカルマギ、ベッドで眠るユキヒ、椅子に座りベッドにもたれかかって眠るディナとトルツ…。ここには4人の人間がいるが、ジルファは独りきりだった。

***

彼らが目を開けると、そこは見たことのない場所だった。
「これが…ユキヒの夢の中なのか?」
広くて四角い空間の中に沢山の小さな机と椅子が綺麗に並んでいた。部屋の片面にはびっしりと窓があり、その隣面には深緑の大きな板が張りつけてある。そこには見たことのない文字が白で書かれていた。
「おそらくユキヒの世界の学校ですね」
自分の世界の学校とそれほど変わらなかった為、すぐに解った。
「しかし…城か砦並みの建物だな」
窓から外を眺め、トルツがつぶやいた。
彼らは互いの姿をみて驚いた。
「なんだ、この格好は」
襟付きのシャツ、ネクタイ、更に襟のついた上着。ユキヒが初めて彼らの世界スウィンシーヴァに辿り着いた時、確かこのような形状の服を着ていた。その男物と言った感じだった。
「それに、なんでお前元の姿なんだ」
トルツにとって、もう一つ驚いた点は、ディナが元の姿(19歳の姿)だということだった。
「よくはわかりませんが、この世界…厳密に言えば夢の中では魔術の力が作用していないと考えられます」
ディナが普段10歳くらいの外見なのは、彼の体内で常に時魔術が作用しており、10歳ほど若い姿になってしまう、一種の呪いのようなものだった。
それが元の姿になっているということは、その魔術を打ち消す何らかの力が作用しているか、魔力そのものが存在しない可能性がある。
「これは、あくまでもユキヒの夢の中…けれどユキヒの世界を模したものだとしたら魔術が使えなくて当たり前かも知れません」
現状を考察したものの、二人はどう動いたものか悩む。

「お困りかしら?」
後ろから声が聞こえたので二人はふりむく。一応戦闘体制をとるが、魔術の使えない魔術師と素手の剣士である。
そこにいたのは先ほどまで現実世界で一緒にいた女性。そもそもこの問題の原因を作った人物だった。
「マイラ」
彼女もまた同じ服を着ていた。こちらはユキヒと同じ女性ものだが着方がユキヒとは大分違っていた。襟のボタンは二番目まで空いており、小柄な割に豊満な胸。その谷間が露になり二人は目のやり場に困る。また、ユキヒは黒の二ーソックスで清楚な感じだったが、彼女は白くてタボダボした靴下をはいていた。
「いくら何でもナビゲーターなしに、この世界を動き回るのは不可能よ」
勢いでここまで来てしまったが、確かに方法も何も一切聞かずに来てしまったことを今しがた後悔したところだった。トルツはいつもそんな行き当たりばったりの性格だが、ディナは普段もっと冷静なはずだった。落ち着いている様に装おっても、ユキヒのこととなると彼は冷静ではいられない。
「手伝っていただけるのですか?」
先ほど3人以上入るのはユキヒの負担になると言っていたが、マイラは最初から自分も手助けするつもりで自分以外に゛あと2人´ということだったらしい。
「それで、俺たちは何をすればいいんだ」
それすら自分たちが理解していないことに恥ずかしさを覚えた。そんな気持ちを察したのか。マイラは若いっていいわね~とつぶやく。こちらは真剣なのに彼女は楽しそうで腹が立つ。しかし、この世界では彼女だけが頼りだった。
「まずはユキヒを探しましょ」
こうして未知なる世界の探索が始まった。

未知の世界…。ユキヒがスウィンシーヴァに来た時もこんな気持ちだったのだろうか。


Next→05.異世界の彼女: https://prairial.blog.shinobi.jp/Entry/69/

03.魔術師マイラ

「ちょっと!!」
トルツが部屋のドアノブに手をかけたところでジルファが止める。
「婦女子の寝ている部屋に入るわけ?」
トルツが呆れてため息をつく。
「入んなきゃどうすんだよ…」
そうは言ったものの、トルツは少し躊躇しながらドアを静かに開けた。

ドアを開けるとベッドが2つある。片方はジルファが寝ていたベッド。そしてもう片方が問題の少女が眠るベッドである。
部屋に入りベッドに近寄ると彼女の寝息が聞こえる。一見何も問題もなく、ただ寝ているだけとしか思えない。
「ユキヒ、起きろ」
トルツがユキヒの肩を軽く揺すりながら声をかけるが、全く起きる気配がない。「これは…」
ディナはユキヒの手に触れ何かに気づいた。
「彼女の中に魔術の気配を感じます」
2人は驚き、ディナを見る。
「どういうこと?」
ジルファがその沈黙に耐えられず疑問の言葉を投げ掛ける。しかしディナには答えることが出来ない。確かにユキヒの中から彼女以外の魔力を感じるのだが、それが何なのかまではわからなかった。
「呪縛系の魔術よ」
ドアの方から声が聞こえた。そこに立っていたのは昨夜一緒だったマイラという女性だった。彼女はスタスタとユキヒの枕元までやってくると、ディナと同じ様にユキヒの手に触れた。タイミングよく現れた彼女に対してディナ警戒する。
「私のせいかも知れないわ…」
彼女は困ったという顔をしながらそうつぶやいた。
「どういうことだ」
今度はトルツが疑問を投げ掛ける。ディナも彼女を警戒したものの、彼女の発言の意図がわからず次の言葉を静かに待つ。
「私は少し特殊な魔術を使用するの」
「特殊?」
゛特殊な魔術´といわれると、ディナにはいくつか思い浮かぶものはあった(例えば、19歳の彼を10歳くらいの外見にしているのも時魔術とい特殊な魔術である)
「私は自己啓発のための魔術を他人に掛ける仕事をしているの」
自己啓発の魔術…。トルツとジルファは首をかしげる。あまり聞かない魔術だが、ディナは聞いたことくらいはあった。
「悩みを抱える人に術をかけ、自分自身で解決させる…という?」
そういった仕事をしているから、昨日ユキヒに対し親身な受け答えをしていたのかと納得した。
「その一つ、夢の中で試練を与え、自分自身を高めるという魔術があるの」
「その魔術をうっかりかけちゃった~、とかそういうオチじゃないわよね?」
ジルファが冗談まじりにそう尋ねると、マイラは静かにうなずいた。
「職業病…ってやつかな~」
今までお姉さん的な落ち着いた雰囲気だった彼女に突然かわいらしさが生まれた。いわゆる゛テヘペロ´というやつだ。
うっかりで済まされるレベルの話ではなかった。3人は唖然となり、突っ込み様がないその状況に沈黙が続いた。
「と、とにかく…うっかり術をかけてしまったと言うなら今すぐその術を解いてください」
場の空気に飲み込まれそうになったが、ディナは体制を立て直して彼女にそう言った。
「それは出来ないわ」
彼女は即答し、彼らになぜかと聞き返される前に言葉を続けた。
「この術は自己啓発魔術の中でもかなり高度なもので、受け手にそれなりの精神力がなければ受けることが出来ないものなの」更に受ける者には必ず誓約書を書かせるという。
「誓約書…?」
「そう。『万が一戻れなかったとしても、自己の責任によるものとする』ってね」
「それでよく仕事として成り立つわね」
とジルファに言われ、彼女はだから成功報酬なのよと答えた。
「つまりどういうことなんだよ」
トルツがもどかしそうに尋ねる。
「つまり…あなた自身は術を解くことが出来ない…ということですね」
トルツもジルファも薄々感付いてはいたがディナがそれを言葉にしたことで、一気に場が氷ついた。
「そ」
「すげぇ重大なことを『そ』の一文字で答えんな!!!!」
トルツが激怒するが、マイラは平然と続ける。
「つまり、彼女自身が夢の中で起こる試練に打ち勝たなければ、彼女は一生眠り続けることになるわ」
ディナも怒りたい気分だったが、怒ったところでユキヒが目覚める訳でもない。
「本当にそれしか方法はないんですか?」
いくらずさんな術でも、なんらかの対処法は存在するはず…と、小さな希望を持ってディナな尋ねた。
「ないわけではないけど…、あまりオススメは出来ないかな」
彼女の言葉に3人が注目する。その方法とは…。

「彼女の夢の中へ?」
ディナはマイラが言った言葉をオウム返しに口にした。
「そ」
『そ』という肯定を意味する返答は彼女の口癖なのだろうか。そう思いながら一同は彼女の次の言葉を待つ。
「術を受けている人間に対し、試練を乗り越えることが困難と判断した場合、他の者がその者の夢に入り込み、手助けをすることも可能よ。」
ただ…とマイラは躊躇いがちに続ける。
「もしも、術を受けている者が試練を乗り越えることができなかった場合。その者の夢の中に入った人間も一生眠り続けることになるわ」
そこまで言い終えるとマイラは静かに彼らの発言を待った。
「その覚悟があれば…」
しばらく沈黙が続いたがそれを破ったのはディナだった。
「あなたは僕らをユキヒの夢の中に入らせることが出来るのですね」
「ええ…。でも成功する可能性は高くはないわ」
ユキヒはどんな夢を見ているのだろうか…不謹慎にもそんなことが脳裏をよぎる。
「俺が行く。待ってるだけなんて性に合わん」
トルツが何の躊躇いもなく名乗りを上げた。
「いえ、僕が行きます。精神的な問題なら力まかせなトルツよりも、僕の方がユキヒを手助けすることができるかも知れません」
いつもなら「なんだと」と言い返すところだが、彼も冷静に考え、その方がいいかもしれないと思った。
「別に1人じゃなくてもいいわよ」
マイラのその言葉を聞くと「なら私も!」とジルファも手を上げたが、さすがに3人はユキヒに負担がかかるとのことだったので諦めることにした。
結局ディナとトルツの二人がユキヒの夢の中へと入ることとなった。
方法は簡単だった。ただユキヒに触れて寝れば、マイラが彼らの夢とユキヒの夢を繋げるとのこと。

そして二人は夢の中へと誘われる

Next→04.夢の中: https://prairial.blog.shinobi.jp/Entry/68/

02.旅での出会い

-前夜-

アルカディを馬車で出発してから数時間…。なんとかその日にのうちに次の町イーリオに到着したが、あたりは真っ暗だった。時間的には夕飯時を少し過ぎたくらいだろう。成り行きではあったがジルファの父親が用意した馬車に乗せてもらえたことはありがたかった。
馬車を降りた後、一行は真っ直ぐに宿屋に向かい、二部屋借りられることを確認すると、そのまま併設する食堂へと向かった。
彼らは4人、魔術師の少年ディナ、剣士の青年トルツ、先日アルカディで出会い別れぎわに「一緒に旅をする!」と言いだしついて来た少女ジルファ。そして、異世界の少女ユキヒだった。
「それにしても、馬車に乗せてもらえて良かったよね、歩きじゃまた何日もかかっちゃうところだったよ。」
異世界の少女は周りを和ませる明るい性格だった。
「まあね、私に感謝なさい」ジルファは偉そうに言う。
「ウォーレント市長には感謝しますが、あなたには一切感謝しません」
ディナが冷たくあしらうのを見て、ユキヒは先日の出来事を思い出した。
「ディナってば、まだ根にもってるの?」
ディナとジルファの出会いは最悪だった。そのせいかユキヒから見ればディナはジルファに対して冷たい様な気がした。トルツが無言で"その話題に触れるな'と目で訴えるのがわかり、ユキヒは慌て話題をそらすことにした。
「お、お腹すいたよね!何か頼もうよ!」
その言葉を待っていましたと言わんばかりに食堂の店員がおすすめのメニューを言いにやってきた。

一通り注文を終えると、ユキヒはまた険悪な空気にならない様に取り繕おうとしたところに、ひとりの女性が声をかけてきた。
「ご一緒してもよろしいかしら?」
女性は魔術師であろう。先端が時計の様な形をした変わった杖が印象的だった。
彼女の問に最初に答えたのはジルファだった
「どーぞどーぞ!女性なら大歓迎だから♪」
良く言えば親しみやすい性格と言えるが、あまりにも警戒心がなさすぎるとディナとトルツは思った。ユキヒもお人好しだがこういう時に率先して答えるタイプではなかった。
「ありがとうございます、他に席が空いてなくて」
あたりを見回すと、確かに食堂は満席だった。お酒も出しているため、夕飯時を過ぎても混んでいるのだろう。
「私はマイラ、見ての通り魔術師よ、王都コバルトに行く途中なの」
ディナとトルツが警戒していることを察したのだろう。彼女は座やいなや軽く自己紹介をした。
4人も自己紹介を済ませると、その流れで会話に至った。
旅をしていると、こういった出会いは良くあることだった。その場で出会った者同士の一夜限りの晩餐。翌朝には特に別れを惜しむでもなく、各々の行く先に出発する。
しかし、先日の"ムシヨビ'の事件もあり、彼らは警戒を怠らない様にしていた。
ディナは会話をする中で悟られない様に彼女を観察していた。彼女が"ムシヨビ'ではないことは一目見ればわかった。彼女には比較的高い魔力を感じたからだ。"ムシヨビ'は魔力を所持していない。その理由をディナは良く知っていた。
そして、聖獣教の信者でもないことがわかった。聖獣教信者は必ず食事の前には"青き鳥シンフィニア'に祈りを捧げる。呟きさえ見逃すまいと思っていたが、まったくその様子はなかった。
考え過ぎだろうか…。気が付けばユキヒも彼女と打ち解け、会話も弾んでいた。トルツも今ではあまり警戒していない様子だった。
会話は主に情報交換だった。彼女は彼らが目指すグリンガルの方向から来たという。途中崖崩れがあり、迂回しなければ通過できないとのことだった。
こちらの情報としては、この先アイシャブルー方面に向かうにはアルカディ経由だと途中ぬかるみがあり、馬車で立ち往生してしまい大変だったこと。カラック経由で向かった方が良いことを勧めていた。カラックはトルツの出身地であり「小さいけど良い町だ」と言っているところ、ジルファに「一回行ったことあるけど、のどかで良いところよね!田舎だから」と言われ喧嘩が始まり、ユキヒが焦って止めに入った。
食堂では随分長い間盛り上がり、いつの間にやらトルツやジルファは他の客と盛り上がっている様だった。相手は年配の旅人達で、だいぶ酔っているのか時々ディナにまで絡んできた。
マイラと名乗る女性は、ユキヒと何か熱心に話をしている様だった。マイラは小柄な女性だったため、最初はユキヒより年下かと思っていたが、しゃべり方や仕草、知識といったことからそこそこ年齢は上なのだろうとディナは予想した。"お姉さん'的な空気を醸し出したその女性は落ち着いた雰囲気でユキヒの話にうなずいていた。何か相談をしている様にも見えるが外野が騒がしい為その内容までは聞きとれない。
ユキヒは先日の"ムシヨビ'事件では自分がシンフィニアのことを安易に他人に話してしまったことを深く反省していた。ゆえに、今知り合ったばかりのこの女性に我々の目的について話すことはないだろう。だが、一体何の話をしているのかが気になった。
結局かなり遅い時間まで食堂にいた。マイラと別れた後、4人も2部屋(もちろん男子と女子で)に別れ眠りにつくこととなった。

そして、その翌朝に事件は起こったのだった。

Next→03.魔術師マイラ:https://prairial.blog.shinobi.jp/Entry/67/

01.目覚めぬ少女

目の前に女性が立っていた。逆光で顔はわからない。けれど彼は彼女を知っていた。
しかし、これは夢だという確信があった。たびたび見る夢だった。彼は彼女を知っているが、彼女に関する記憶はない。
夢とは一体なんなのだろうか。希望なのか願望なのか。はたまた前世の記憶が甦えるのだろうか。

***

ある宿屋で目を覚ました少年。彼は朝にはめっぽう弱かった。だが、今朝は珍しく朝焼けと同時に目が覚めた。隣のベッドでは人一倍早起きの金髪の青年が、まだいびきをかいて熟睡している。少年は光の具合で漆黒にも群青にも見える短い髪をかきあげると、軽く伸びをした後、机の上の眼鏡を取るためにベッドから立ち上がった。まだ部屋は薄暗い。
彼はふと小さな声でつぶやいた。―あの夢はなんなんだろうか― …と。

***

宿屋1階の食堂には既に何人かの泊まり客が朝食を食べていた。ディナが情報収集もかねて宿屋の店主と雑談していると同室の相棒、先ほど隣のベッドでいびきをかいて寝ていた青年が下りて来た。
「珍しいな、お前がこんなに早く起きてるなんて」
彼の名はトルツ、少年と行動を共にする旅の仲間である。彼とは出会って5年ほどたつ。少年は3年前まで彼の家の居候だった。居心地が悪かった訳ではないのだが、居候の身では気を遣うこともあり、3年前アイシャブルー城の騎士試験を受けることを口実にトルツに黙って家を出た。
だが偶然にも同じ日にトルツは彼に黙って騎士試験を受けるために家をを出ていたのだった。
道中の宿屋で偶然再開し、騎士試験当日は2人してある事件に巻き込まれ、王女エリザフィアを助けることとなったが、おかげで2人して騎士試験に落選したのだった。王女は自分のせいで騎士試験に落選した2人を騎士試験に合格させて欲しいと彼女の父、つまり国王に懇願したがそれはかなわなかった。
見兼ねた王女の側近であり宮廷魔術師のシュドルクが「姫付」という新たな役職を設け、2人を王女の側に置くことを提案し、国王もそれに同意した。
この配属は2人を気に入った王女のわがままであったが、騎士試験に落選し、またターナ家(トルツにとっては実家)の世話にはなりたくないという彼らの希望と一致したため、二人は「姫付」としてついこのあいだまで城の姫の元で働いていた。
ある少女がこの国に現れなければ彼らは旅に出ることもなく、今でも城で暮らしていたはずだ。
その少女とは、同じ宿の別室で今はまだ眠っていることだろう。
「ディナ、トルツ!!大変なの!!」
食堂入り口の方から大声が聞こえた。食堂中の客ががその方向を見た。あきらかに自分たちの仲間の声であり、大声で名前まで呼ばれたので恥ずかしくなる。
「どうしたんですかジルファ、朝から公衆の場で大声を出して大迷惑です」
ディナは普段から物腰丁寧な話し方だが、ジルファとトルツに対しては刺々ししい物言いをする。
だがジルファと呼ばれた少女は気にせずにつづけた
「ユキヒが起きないの!!」
ディナは彼女の発言が予想以上に゛大変なこと゛ではなかったため一瞬戸惑った。
「だからどうしたんですか。昨日宿に着いたのが遅かったから、まだ熟睡してるんじゃないですか?」
「だって、ゆすったり、叩いたり、つねったりしても起きないのよ!!おかしくない?!」
「つねったり叩いたりしたのかよ…」
後ろからトルツが口を挟むがおかまいなしで彼女はしゃべり続ける。
「だいたいもうこんな時間よ、いくら昨日遅かったからって…」
ディナは自分が早起きだったのと、トルツがいつもより起きるのが遅かったことから、時間の感覚が曖昧だったが、もうすぐ昼になるというところだった。
「確かにな…とりあえず部屋に行ってみようぜ」
トルツがそう言って腰を上げた時、ディナは突然の胸騒ぎを感じた。
その胸騒ぎはただの思い過ごしであることを願いながら、トルツとジルファと共に彼女の眠る部屋に向かった。
その数時間後、思いがけない世界に踏み込むことになろうとは考えもしなかった。


Next→02.旅での出会い: https://prairial.blog.shinobi.jp/Entry/66/


忍者ブログ [PR]

graphics by アンの小箱 * designed by Anne